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高知地方裁判所 昭和24年(行)67号 判決

原告 高知県造船株式会社

被告 高知県知事 外二名

一、主  文

被告地区農地委員会が昭和二十三年六月十一日別紙目録中五千百二十六番畑三反八畝三歩の一部(別紙図面中(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地)並びに残り二十一筆の土地につき定めた買收計画及び右土地に関し被告縣農地委員会が昭和二十四年三月二日附で原告の訴願を棄却した裁決を取消す。

被告知事が別紙目録記載の土地につき昭和二十三年七月二日附の買收令書によりなした買收処分は無効なることを確認する。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用は全部被告等の負担とする。

二、事  実

原告訴訟代理人は「被告地区農地委員会が別紙目録記載の土地につき昭和二十三年六月十一日定めた買收計画並びにこれに対する原告の訴願を被告縣農地委員会が昭和二十四年三月二日附で棄却した裁決を取消す。被告知事が右土地につき昭和二十三年七月二日附の買收令書によりなした買收処分は無効なることを確認する、その理由なきときはそれを取消す。訴訟費用は被告等の負担とする」との判決を求める旨申立て、その請求の原因として次のように述べた。

「被告地区農地委員会は昭和二十三年六月十一日別紙目録記載の土地につきそれがすべて自作農創設特別措置法第三條第五項第四号に該当する小作地であるとして買收計画を定め、原告の異議を却下した。そこで原告が訴願を提起したところ被告縣農地委員会は昭和二十四年三月二日附でこれを棄却する裁決をした。他方被告知事は右買收計画に基き昭和二十三年七月二日附で右土地につき買收令書を発行しそれを原告に交付して買收処分をした。ところで被告等のこれ等の処分はいづれも次のような理由で違法である。すなわち被告地区農地委員会の右買收計画が違法であるからそれに基く被告縣農地委員会並びに被告知事の処分はいづれも当然違法である。先づ本件土地は右第三條第五項により買收すべき土地には該当しない。所有者である原告はなるほど法人ではあるが本件土地はいわゆる小作地ではない。(一)別紙目録中五千百十二番畑三反四畝七歩はその上に原告が昭和十九年頃高知縣木船工補導所を設けその後現在までその家屋の敷地として使用していて現況農地でなくもとより小作地でもない。(二)右以外の別紙目録記載二十一筆の土地は昭和二十二年十一月原告がそれを長浜農業会に賃貸したのであるがそれは右農業会がこの土地を農業技術指導農場として使用すること、その期間は昭和二十三年十一月十四日までの一箇年とする旨の約束であつた。しかるに右農業会はその後五千百二十六番畑三反八畝三歩の一筆を右目的に使用しているだけでその他の土地は全部それを所有者である原告に無断で他に轉貸耕作させていて自ら耕作の目的に供してはいないのであるからこれは右農業会の小作地でないことは勿論その轉貸を原告は承諾していないので轉借人等の小作地でもない。又約定の賃貸期間一箇年もすでに経過したので右農業会は当然右二十一筆の土地全部を原告に返還すべきもので現在これ等の土地はいわゆる小作地でない。なお、五千百二十六番畑中には現況が建物の敷地であつて農地でない部分があるからそれは勿論小作地といえない。次に本件土地は右法律第三條第五項にいわゆる自作農の創設上政府が買收することを相当と認めるべき土地にも該当しない。原告は終戰後の必要品である漁船の建造並びに修繕を業とする会社であるが本件土地はその事業資金借入れのための担保となつているものであるから買收されると他に担保とすべきもののない原告としてはその存立が危態に陷る。のみならずこの土地は原告從業員の福利厚生施設として蔬菜園にあてるため絶対必要である。以上の外被告知事の買收処分にはなお次の違法がある。被告知事は本件買收令書を昭和二十三年八月二十日原告に交付した。ところで原告の訴願に対する被告縣農地委員会の棄却裁決は昭和二十四年三月二日附でなされている。そこで被告知事は訴願裁決前從つて又本件買收計画に対する承認前にすでに買收令書による買收処分をしたことが明らかである。これは自作農創設特別措置法第八條、第九條所定の手続に全く違反した買收処分である。從つてこれは当然無効あるいは取消されるべき処分である。そこで原告は被告等のこの違法な処分の取消あるいは無効の確認を求めるため本訴に及んだものである。」(立証省略)

被告地区農地委員会は本件訴訟につき適式の呼出を受けながら口頭弁論期日に出頭せず又答弁書その他準備書面を提出しない。

被告縣農地委員会及び被告知事各指定代理人は「原告の請求を棄却する」との判決を求め、次のように述べた。

「原告主張の事実中被告地区農地委員会が原告主張のような買收計画を定め、これに対する原告の訴願を被告縣農地委員会が棄却する裁決をしたこと、被告知事が昭和二十三年七月二日附で買收令書を発行しそれを同年八月二十日原告に交付したこと及びその交付が、被告縣農地委員会の訴願裁決前であることは認めるがその他の事実は爭う。買收令書の交付による買收処分はたとえ訴願裁決前になされても違法ではない。本件土地は自作農創設特別措置法により当然買收すべきもので被告等の処分に違法な点はない」

三、理  由

被告地区農地委員会が別紙目録記載の土地につき昭和二十三年六月十一日自作農創設特別措置法第三條第五項第四号該当の小作地として買收計画を定めたこと、これに対する原告の訴願を被告縣農地委員会が昭和二十四年三月二日附で棄却する裁決をしたこと、被告知事が右土地につき昭和二十三年七月二日附で買收令書を発行し同年八月二十日それを原告に交付して買收処分をしたことは当事者間に爭いがない。

ところで証人桑原嘉吉、上村松太郎の各証言と檢証の結果を綜合すると別紙目録中五千百十二番畑三反四畝七歩はその一部が昭和十九年頃から現在まで建物の敷地として使用されていて農地ではなく又残部は荒地あるいは花畠、野菜畑等として使用されているがその野菜畑等もいわゆる家庭菜園というべき程度のものであることが認められる。そこでこの土地は農地とはいえない。のみならず右証人の証言によりその現在の耕作者はそれを耕作、使用する正当な権限を持つものではないことが認められる。そこでこの土地はいわゆる小作地には該当しないといわねばならない。そこでこの土地の買收計画は違法である。

次に右土地以外の別紙目録記載二十一筆の土地については証人桑原嘉吉、崎本敬貴の各証言及び檢証の結果を綜合すると次の事実が認定できる。原告はこれ等の土地を昭和二十二年十一月頃長浜農業会に対し期間一箇年、その間の賃料三万四千八十八円、農業会はこれ等の土地全部を農業指導農場として使用するという約定で賃貸したこと、しかるに同農業会はその後右土地中五千百二十六番畑三反八畝三歩の一筆だけを指導農場として使用しているにすぎないこと、残りの土地は他の第三者が耕作しているのであるがそれは原告の承諾なしに耕作しているものであること、そして右五千百二十六番畑中一部(別紙図面中(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地)は家屋三棟の敷地及び通路として使用されていて農地ではないことが認められる。以上の認定に反する証人高橋孝保、葛目久万亀の各証言は採用し難い。そこで右五千百二十六番畑中現況が指導農場の農地の部分は前記農業会のいわゆる小作地であるといわねばならない。もつとも原告はこの部分についても賃貸期間がすでに経過したのでこれは小作地ではなくなつた旨主張するが本件買收計画が定められたことにつき当事者間に爭いのない昭和二十三年六月十一日当時はまだその賃貸期間内であつたことが明らかであるからこの主張は採用できない。しかしながら右五千百二十六番畑中前記敷地及び通路の部分並びに他の二十筆の土地は前記農業会が現実に耕作の業務の目的に供していないし又現実の耕作者は正当な権限がないのであるから結局これ等の土地はいわゆる小作地とはいえない。そこでこの部分についての買收計画は違法である。

原告は本件土地が自作農創設特別措置法第三條第五項の買收相当と認めるべきものに該当しない旨主張するがその主張のような事情はたとえそれが全部認められたとしても本件土地を買收相当と認める妨げとなるものといえないのでこの主張は採用できない。

最後に被告知事が本件買收計画に対する訴願裁決前にすでに買收令書を発行しかつそれを原告に交付したことは当事者間爭いがない。そしてこれは原告主張のように自作農創設特別措置法第八條、第九條所定の手続に違反する違法の処分である。行政処分ももとより適法になされなければならない。それは法治国家の要請である。この要請からすれば被告知事の本件買收処分は右法條所定の手続によりそれが当然なされるべき時期以前になされた行政処分として重大な瑕疵あるものである。そしてこの瑕疵はたとえその後において買收処分と内容の一致する訴願棄却裁決がなされたとしてもそのため治ゆされるとするには余りに重大である。行政処分の迅速を尊ぶ余り法治主義を軽視する考え方は反省を要する。そこで被告知事の本件土地に関する買收処分は重大な違法があるものとして当然無効の行政処分であるといわねばならない。

以上の次第であるから別紙目録中五千百二十六番畑の一部(別紙図面中(イ)(ロ)(ハ)を結ぶ範囲内の土地)と他の二十一筆の土地に関する被告地区農地委員会の買收計画並びにそれに基く被告縣農地委員会の訴願棄却裁決は当然違法であつて取消を免れない。そして被告知事の本件土地に関する買收処分は当然無効としなければならない。そこでこの範囲において原告の本訴請求は正当として認容すべきであるがその余は失当として棄却することとし訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條、第九十二條を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 森本正 安芸修 谷本益繁)

(目録省略)

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